『砂の曼陀羅 サマンサラ』3部作 『流星群の夜』 『摩天楼のネジ穴』
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
さて、今年最初のブログは、お子さんから大人まで楽しめる読書のおすすめにしよう。
今年は自宅で過ごされているご家族も多いことかと思う。
本を読み、それぞれの現実から離れた時間を過ごしてみるのも一興。
今回も私が大好きな、きしべのあざみさんの本をご紹介しよう。
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きしべのあざみさんについて
元々ブログ友だちのきしべのあざみさんに関する過去記事はこちら。
こちらではエッセイも含め、4作ご紹介しているので是非ご覧いただきたい。
今回は新たなシリーズものも含め、3作品をご紹介する。
砂の曼陀羅 サマンサラ 3部作(完結)
あらすじ
天上の不思議な村に、不思議な赤ん坊が登場するシーンから始まる。
赤ん坊がひとりで村の中心にある大木戸に向かうと、村人すら開いたところと見たことがない扉が開き、赤ん坊は木戸に吸い込まれるように消えた。
それから6年後の早朝、木戸から袈裟姿の少年が放り出された。
彼こそが木戸に吸い込まれた赤ん坊で、物語の主人公トイジャである。
トイジャは村の長である老人シナンに育てられることになった。
寺で修業をしていて追い出されたというトイジャだったが、何があったかは語ろうとしない。
村のことを教えつつ、シナンはある日、トイジャを西に門に連れて行く。
そこには結界が張られ、結界の向こうには邪鬼と呼ばれる飢えた者たちがいた。
この出来事がきっかけとなり、トイジャは村を出る決意をする。
結界の外に出たトイジャは記憶を失っていた。
一緒に旅をしているのが誰なのかもわからない。
大地が干上がった貧しい村で、トイジャは同じ年頃の少女スーと出会う。
スーは兄と妹を亡くしており、2人のために経を唱えてほしいと頼まれるトイジャたち。
スーの兄妹が眠るナイラの木の前に立ったトイジャは、無意識のうちに美しい経を唱え始めた。
その調べに誘われるように村人たちが集まり、トイジャはホーライの山から来たという高僧に声をかけられる。
占いで次の法皇になる者がこの村にいると知り、探していたが、トイジャがその人物であると確信したというのだ。
経は勝手に口から出てきただけで、自分には意味もわからないと抗うトイジャだったが、法皇になる者としてホーライの山に連れていかれることに。
一緒に旅をしてきた人物との別れに涙が止まらないトイジャ。
その理由もわからないまま、輿に乗せられてホーライへと旅立った。
ホーライで待ち受けていたのは、トイジャと同じように、占いで連れてこられた少年タイラーとの運命的な出会い。
2人は仲良く勉強に励むが、トイジャが少しずつ記憶を取り戻したことによって、別々の道を歩むことになる。
感想
長くなったが、前編のほんの序章に過ぎない。
トイジャとタイラーは壮絶とも言える運命を背負った2人。
トイジャの旅は長く続き、いろんな人との出会い、出来事に満ちている。
もちろん、いいことばかりではなく、中編の最後には窮地に陥ることに。
トイジャの正体は徐々に明かされるが、最終巻の後編では予想を遥かに上回る展開が待っていた。
とにかく、きしべのあざみさんの描写は細やかで、貧しい人々の暮らしぶりでも、スケールの大きい情景であっても思い浮かべやすい。
心理描写も緻密で、どの人物にも不自然さがなく、すんなりとストーリーが入ってくるのだ。
そしてもうひとつの地球を見ている感覚、これを平行世界というのだろうか。
リンクのさせ方がとても丁寧だと感じた。
現代の実情が実情だけに、とても気を遣われたのではないだろうか。
私が1番感じたのは、ファンタジーだから描けるリアリティが存在するということだ。
トイジャとシナン、タイラーと法皇の会話はどれも興味深いものばかり。
読後感があたたかいことがきしべのあざみさんの作品の特徴だが、こちらの作品も例外ではない。
かなりの力作で読み応えあり。
1人でも多くの方々に読んでいただきたい。
ご本人の許可を頂戴し、力強いメッセージ性のある後書きを引用させていただく。
さいごに
広大な世界に 私たちは 生まれました。 曼陀羅は チベット仏教の宇宙感です。幾何学模様の中に 仏を描き、宇宙を表現しました。
宇宙の中の ちっぽけな自分でも、日々 なにかに向かって 喘ぎながら歩いています。生きることは、誰しも 苦しいものです。 ちっぽけな自分でも、 魂が宿り、やがてくる時まで 歩み続けなくてはいけません。
最後には、自分なりのハッピーエンドが 迎えてくれるに違いないと、いつも 心に壮大な世界を イメージしましょう。
れぞれがイメージする 壮大な世界の旅人なら 小さなことは気にならなくなりますよ。
ファンタジー は、閉塞感漂う 現実世界の避難場所かも知れませ ん。
流星群の夜
あらすじ
主人公は小学6年生のダイチ(田川大地)。
物語はダイチの語りで進行していく。
舞台はいなか町で人口も少なく、ダイチの小学校は1学年に1クラスしかない。
幼稚園からずっと同じ顔ぶれで、互いのことをよく知っている。
ダイチが最近気になっているのは駄菓子屋の不思議なおばあちゃん。
すごく頭が良くて、でも普通では理解できない行動をしたり、話したり。
宇宙人か、異次元から来た人ではないかと思い、ダイチは夏休みに調査することにした。
日中に開放されている学校のプールに行き、毎日友だちと駄菓子屋に寄るダイチ。
そんなある日、おばあちゃんから「ペルセウス座流星群を一緒に見ませんか?」という招待状が届いた。
母に「ダメ」と言われると思っていたのに、行ってもいいと言われ、しかもワクワクしている母にダイチは驚く。
ダイチの母だけではなかった。
町中の大人たちが何やら準備を始めたり、仕事を休んだり。
集合場所は校庭で、ダイチは体育館に小学生をまとめる役目を担うことに。
何かが起ころうとしている。
ダイチはペットのヨウムを連れ出しに戻ったが、電気が灯っている家は一軒もなかった。
途中、駄菓子屋に寄ったダイチが目にしたものは…。
感想
とても素敵で面白いSFファンタジーだった。
全38ページ、小学6年生のダイチが一人称で語るので、大人もお子さんも気軽に楽しめる作品になっている。
おばあちゃんとダイチや、ダイチの友だちとのやり取りも、面白かったり奥が深かったり神秘的だったりと、読んでいるこちらもおばあちゃんの正体が気になってくるのだ。
ダイチの父のペットであるヨウムの「リキヤ」も、いいアクセントになる存在感を発揮。
読後のあたたかさに爽快さも加わり、夢あふれる『流星群の夜』。
読んでから時間が経っているが、思い返す度にほっこりした気分になる。
是非、読んでみていただきたい。
摩天楼のネジ穴
あらすじ
異種族の「共存」がテーマのファンタジー小説。
人間はランディアナ半島に幽閉した魔法族を恐れ、交渉の末、魔王ガウザニと王妃、王女のサラディを監視下に置くことにする。
サラディの魔法が強力だったため、ガウザニは我が子の記憶と能力を一時的に封じていた。
幼馴染みの妖魔ドーラを姉、両親を祖父母と思い込み、自分が魔法族の王女であることも忘れ、15年を過ごしたサラディ。
ある日、ドーラの兄シュタイガーが、美術館から絵画『霧のライディアナ城』を盗み出し、事態は一変する。
ガウザニは命を削るような魔法で、皆から魔力を奪い、自分の魔法を真っ先に破りそうなシュタイガーを城ごと閉じ込め、隠してしまっていたのだ。
人間と共存するために。
魔法族の15年は人族の400年に相当し、ガウザニが皆の魔力を封じていたため、魔法族のことは人間界ではすっかり昔話になっている。
父の魔法から解放されたサラディは、一挙に記憶を取り戻し、ドーラとシュタイガーとともに城へ戻った。
人族との争いを避けたいガウザニは話し合いに赴き、城に戻ったサラディは人族以外の7種族と議会を開こうとしていた。
結界が破れてしまったため、時間が止まった人間界に魔法族たちがなだれ込み、好き勝手に振舞っている。
中でも獣人は危険だった。
サラディの部屋を訪れた時の番人が、人間界に行っていたシュタイガーを召喚すると、カリーナという人間の女の子と一緒に現れる。
カリーナは獣人に襲われて顔に怪我をし、怯え切っていた。
7種族の共存さえ危ぶまれる中、サラディはどう振る舞うのか。
果たして、ガウザニと人族の交渉は成功するのか。
感想
魔法族の中でも価値観や世界観が大きく異なり、それをまとめてきた魔王ガウザニは偉大な存在である。
サラディは王の代理を務めようと必死だったが、暴走を始めた魔法族を誰も止めることはできなかった。
シュタイガーのように、王の魔力で城ごと閉じ込められていた者たちが、はしゃぐ気持ちはわからないでもない。
それに、人間の悪い部分しか見られていない気分の時に、心優しいカリーナが現れたのも絶妙なタイミングだと思った。
奇麗な森や花々を前にはしゃぐカリーナを見て、こんな感情を持つ人間もいるのかと驚くサラディが印象的。
1つの種族にしても個々様々で、逆もあるだろうし、そもそも共存を望まない者がいても不思議ではない。
サラディたちは王が戻るまで諦めることなく、道を探そうと模索する。
著者のきしべのあざみさんは、「これこそ私の精神世界」と仰っていた。
それぞれの時間軸というものの存在、そしてネジ穴。
私はどこまで理解できたのだろうと不安を覚える。
自ら道を選択した種族、その選択を尊重する魔王。
この物語での魔王の決断は正しいと思えた。
そしてラストシーン。
もう本当に、ここに書いてしまいたいほど、穏やかであたたかくて、ちょっぴりせつなさもあって、何とも言えない美しい余韻を残す作品だった。
素敵な物語なので、こちらも是非お読みいただきたい。
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あとがき
途中で眠ってしまい、下書き保存したつもりが、未完成なまま公開してしまっていたようだ。
中途半端な記事をご覧になった皆様、誠に失礼致しました。
本はジャンルを問わず、これからもたくさん読み続けていきたい。
それではまた。
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