鷺沢萠著『さいはての二人』『約束』『遮断機』の感想
鷺沢萠さんの作品集を読んだのは3冊目になる。
角川書店の「さいはての二人」に収録されているのは、表題の『さいはての二人』と『約束』『遮断機』の3作品だ。
どの作品も主人公が悩み、渇望、諦念、絶望を抱え、それでも人間のあたたかさ、生きる強さを感じさせてくれる。
こう表現してしまうと陳腐に思えるが、著者が描く人物像は繊細な上に立体感があり、とても読み応えがあるのだ。
今回は、拙いながらも、その3作品の感想を書いてみようと思う。
『さいはての二人』感想
――新橋の飲み屋でバイトをする美亜は、日本人離れした容貌の26歳。ある日、客としてやって来た宮本という中年の男と出会う。謎めいた彼と接する度に、穏やかな心地よさを感じるようになる美亜。この男(ひと)は、あたしだ…。二人の心はごく自然に互いを求め合い、慈しみ合い、寄り添っていた――
美亜の心理描写がとにかく丁寧で秀逸だ。
不釣り合いに見える二人が求め合うようになる様が、とても自然に描かれている。
平凡な家庭とは無縁な彼女たちだが、傷をなめ合う関係ではない。
ひたすら相手に寄り添い、慈しむ…そんな穏やかな関係もあるのだと気づかされた。
終盤、ある出来事が起こり、意外な展開を迎える。
ハッピーエンドでもバッドエンドでもないと私は感じた。
美亜のたくましさに救われたような気持ちになる。
或いは人の生命力の強さに。
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『約束』感想
――人生に何の目的も見出せずにいる、お坊ちゃん育ちの主人公 行雄。彼女の妊娠をきっかけに田舎を逃げ出し、東京で隠れ住むように暮らしていた。ある日、自宅アパート前で、「サキ」という少女と出会う。子ども嫌いのはずなのに、会話を交わし、彼女に純粋な興味を抱く行雄。だが、行雄の隣の部屋から赤ん坊の泣き声が響くと、サキの表情は一変した――
ある程度、予想通りに展開していくが、終盤に大きな山が待ち受けている。
ネタバレせずに感想を書くのは至難の業だ…。
是非、読後感の悲哀とあたたかさを感じていただきたい。
ラストはこれまた秀逸である。
『遮断機』感想
――足元もおぼつかないほど酔っ払い、開かずの踏切まで辿り着いた笑子(えみこ)。踏切の向こうには、幼い頃、母子ともに世話になった「おじい」の姿があった。大手コンピューター会社に勤め、笑子は今年で30歳になる。転職する前に5年つきあった先輩の飛田のことを、今も忘れられずにいた。出席した知人の結婚パーティーで衝撃の事実を知り、全てに絶望してしまった笑子は、おじいに会いたくて、話をしたくて、踏切が開くのをジリジリしながら待ち続けた――
おじいには会えるし、話もする。
笑子の話は意外性がない代わりに、とても生々しくてリアルだ。
著者の描写力の真骨頂とも言えるのではないかと思う。
読後感は一言、あたたかい。
ボキャブラリーが乏しくて申し訳ない。
生きていていいのだと思った。
こんな私でも。
こちらの短編も、是非お読みいただきたい。
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あとがき
私に鷺沢萠さんの本を勧めてくれた友人に感謝したい。
とても巧みで、触発される部分が多くあった。
機会があれば、これからも彼女の作品に触れていきたい。
それではまた。
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