抗うつ薬の基礎知識 知っておきたいくすりの話
うつ病は今や国民病といっても過言ではない。
昨今、もっとも取り沙汰されるのは「コロナうつ」であるが、冬だけ不調になる「冬季うつ病」についても先日取り上げたばかり。
是非、併せてご覧いただきたい。
今回はうつ病の治療に欠かせない「抗うつ薬」について解説していこう。
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抗うつ薬とは? うつ病と抗うつ薬の基礎知識
文字通り、うつ病・うつ状態の患者に主に用いられる精神科の薬である。
気分が落ち込む、何もする気が起きないというような一時的な状態を「抑うつ状態」「抑うつ気分」「うつ状態」と一般的に表現する。
「うつ病」は、その症状が長期間に渡り、比較的重度の場合を言う。
精神科もしくは心療内科での治療が必要となり、鬱(うつ)の治療に用いられる薬が「抗うつ薬」である。
ただし、うつ病の程度、医師の判断等により、抗うつ薬を使用しない治療になる場合もある。
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抗うつ薬はどれくらいで効く? 急性期とは?
抗うつ薬に即効性はなく、効果が表れるまで2週間~1ヵ月が目途となる。
副作用については後で説明するが、副作用が先に出始め、慣れた頃に効果が表れるケースも少なくない。
実際に、私がそうだった。
飲み始めてすぐに副作用に苦しみ、その副作用が治まってきた2週間後に効果が表れ始めたのである。
治療を始めてから、症状の改善が見られるようになるまでの期間を「急性期」という。
うつ病患者には、症状としての焦燥感が強い人もいるが、急性期に重要なのは充分な休養と抗うつ薬の服用だ。
合う薬、効き目には個人差があるので、中には強い副作用が長期間続くケースもある。
でも勝手にやめることはせず、医師に相談して薬を替えるなり、判断を仰ぐことが必要だ。
精神科の処方薬全般に言えることだが、絶対に自己判断で服用する量を変えたり、やめたりしないこと。
これは精神病治療の鉄則である。
自己判断は症状の悪化を招く原因となる。
何ごとも医師に相談するように心がけよう。
抗うつ薬の副作用は?
同じ薬を服用していても、副作用にも個人差がある。
まず、主な副作用を挙げてみよう。
- 眠気
- 頭がボーっとする
- 頭痛
- ふらつき、立ちくらみ
- 吐き気、胃がむかむかする
- 目がぼやける
- 脈が速くなる
- 便秘、尿が出にくい
- 生理が不規則になる、乳汁が出る
- イライラや落ち着きのなさ
- 口が渇く
- 性機能障害
- 体重の増加
薬によっても違い、このすべてが当てはまるわけではない。
吐き気の副作用が予想されれば、それを抑える胃腸薬が処方される。
私は最初はサインバルタを処方されたが、副作用は眠気と吐き気だけだった。
でも3日くらいで吐き気は治まったと記憶している。
副作用があまりに強くて辛いようであれば、次の受診時を待たずに医師に相談することをお勧めする。
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抗うつ薬一覧
現在、日本で使用されている主な抗うつ薬を挙げる。
尚、表記は 一般名(商品名)とする。
三環系
イミプラミン塩酸塩(イミドール・トラフニール)
トリミプラミンマレイン塩酸塩(スルモンチール)
アミトリプチリン塩酸塩(アミトリプチリン塩酸塩・トリプタノール)
ノルトリプチリン塩酸塩(ノリトレン)
ロフェプラミン塩酸塩(アンプリット)
ドスレピン塩酸塩(プロチアデン)
四環系
マプロチリン塩酸塩(ルジオミール)
セチプチリンマレイン酸塩(セチプチリンマレイン酸塩・テシプール)
その他
エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ)
デュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)
ベンラファキシン塩酸塩(イフェクサーSR)
NaSSA
ミルタザピン(リフレックス・レメロン)
その他
ボルチオキセチン(トリンテリックス)
抗うつ薬の分類
一覧は、ほぼ開発または認可された順になっている。
三環系→四環系→その他→SSRI→SNRI→NaSSA→その他
うつ病のメカニズムはまだ解明には至っていないが、脳のシナプスにおける神経伝達物質(ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミン等)の取り込みに問題があるとされている。
三環系・四環系が従来の抗うつ薬と称されるのに対し、SSRI・SNRI・NaSSAは新型抗うつ薬として括られる。
それぞれの神経伝達物質への作用は次の通り。
- SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬。シナプスにおけるセロトニンの再吸収に作用する。抗うつのほか、抗不安薬としても使用される。
- NaSSA ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬。シナプスにおける神経伝達物質の再取り込みを阻害して濃度を上げるのではなく、セロトニン、ノルアドレナリンの分泌量そのものを増やす作用がある。基本的に抗うつ薬の処方は1種とされているが、効果が薄い場合、これが併用されることがある。
- その他(トリアゾロピリジン系) セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬。セロトニンの再取り込みを阻害する他、セロトニン5-HT2受容体の阻害作用が強い。トラゾドン塩酸塩(デジレル・レスリン)が該当する。
カリフォルニア・ロケット療法
通常、うつ病治療に用いられる抗うつ薬は1種類だが、ミルタザピン(リフレックス・レメロン)とSNRIまたはSSRIの抗うつ薬を併用することがある。
この抗うつ薬併用療法を、カリフォルニア・ロケットという。
ちなみに、私はミルタザピン(リフレックス・レメロン)とデュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)を併用している。
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医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
薬機法(旧薬事法)と略される。
抗うつ薬は向精神薬のような依存性はないとされているが、「毒薬及び劇薬の取扱い」として薬機法第44~48条で定められた法律がある。
以下に条文の一部を引用する、
(開封販売等の制限)
第45条 店舗管理者が薬剤師である店舗販売業者及び医薬品営業所管理者が薬剤師である卸売販売業者以外の医薬品の販売業者は、第58条の規定によつて施された封を開いて、毒薬又は劇薬を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
要するに管理者が薬剤師の薬局のみで販売が可能であり、個人的な譲渡や売買は、当然ながら法に反する行為になる。
罰則は違反のケースによって異なるが、多くの場合では罰金刑と懲役刑に処せられる。
勝手に服用をやめ、余った薬をインターネットで売ろうとすればすぐに捕まる時代である。
個人でも薬の管理にはしっかりと責任を持とう。
うつ病治療を自己判断でやめないこと 再発の危険性について
患者本人も誤解していることがあるが、うつ病は気の持ちようでどうになかる病ではないし、精神力の強さや弱さもまったく関係ない。
回復してくると、次はその状態を維持するための治療に変わる。
なぜなら、それほど再発率の高い病だからである。
以前の記事でも触れたが、うつ病に「完治」という言葉は使われない。
回復した状態を「寛解(かんかい)」という。
寛解の維持治療を受けていれば再発の防止にもなるし、再発した場合も早期発見が可能となる。
とにかく信頼できる主治医を持ち、指示通りに治療を続けることが回復への早道である。
出典:やさしい うつ病・うつ状態 ハンドブック ㈳埼玉県釈迦福祉協議会事務局
出典:うつとうつ病 Hand Book こころの陽だまり|うつ病の情報・サポートサイト
出典:医薬品医療機器等法
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あとがき
以前、劇薬に関する記事は書かないと宣言したが、「劇薬」であることに拘らず、淡々とした表現で書いてみた。
しっかり調べたつもりであるが、薬名などに誤りがあった場合、遠慮なくご指摘を賜りたい。
私自身は障害等級1級の重度うつ病患者で、ミルタザピンとサインバルタを併用している。
カリフォルニア・ロケットという療法らしい。
どちらも上限量まで達し、最近になってやっと小さな変化が見られるようになった。
焦らずに、着実にうつ病とつきあっていきたいと思う。
それではまた。
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